ねこ・犬の里親譲渡契約書(1)-トライアル契約

今日はM町地域ねこ現場出身の海くんのトライアルお届けがありましたが、それは改めて別記事でまとめることとして、この記事ではねこ・犬の里親さまへの譲渡に際して結ぶ契約書について書いてみたいと思います。

さるねこ父が自分で保護して里親さまへと引き継いだのはココちゃんだけです。そのときには既にアニマル・ボランティアのお手伝いをしていましたし、譲渡契約書を作ろうかなという頭もなかったではないのですが、結局Yさんとの間ではわざわざ「契約書」というかたちにはしませんでした。

ねこや犬を里親さまに譲渡する際にわざわざ契約書を作るのは、トラブルを防ぐためです。一番大きなトラブルは里親詐欺ですし、そこまでではなくても、十分なケア・医療を施さなかったり外に出して事故に遭わせて早死にさせてしまったり、ということもあるでしょうし、不妊化手術を怠って子ねこが大量に生まれてしまい結局それが保健所に持ち込まれる、というケースもあります。「そうならないように」「この子は終生飼養で幸せに天寿を全うできるように」という保護主側の思いを考えれば、できるだけトラブルの芽はつぶしておきたい。その結果として「契約書」というかたちで相手=里親を縛ろうとするわけです。

しかしそれは裏を返せば、「里親を信頼しきれていない」ということの証でもあります。「ねこでも犬でも、命を預けるわけだから、どんなに用心してもしすぎることはない」という理屈はさるねこ父はよく理解できますが、里親側から見れば「痛くもない腹を探られるようで、不愉快だ」と感じるのも、またよくわかります。「ちゃんと飼ってほしい、というのはもちろんわかるが、だからといってなんでわたしが犯罪者『かもしれない』という扱いを受けなきゃならないのか」と憤る里親希望者さまは実際にいらっしゃいますし、それがもとで譲渡の話自体が流れてしまったケースも少なくありません。

万が一の犯罪につながる確率をなくそうとするあまり、99.9…%の里親希望者さまに少なからず不愉快な思いをさせ、つながるかもしれない縁をけっこうな確率で(さるねこ父の体感だと、10件に1件以上の割合で)途切れさせてしまう、ということに、わりと以前からさるねこ父は疑問を感じています。

「契約書」がいらない、というわけではありません。譲渡契約を結ぶ根本的な目的は、おそらく2つあります。1つは、「本来はいったん譲渡してしまえば所有権は保護主から里親に移り、そのあとは里親がねこ・犬にどういう扱いをしようが、保護主は黙って指をくわえてみているしかない」という状況に陥ることを回避し、「譲渡した後でも、一定の条件では、保護主は里親にねこ・犬の返還を請求できる&里親は返還しなければならない」という留保を取り付けることです。そしてそれは、必要な留保だと、さるねこ父も思います。

譲渡契約の目的の2つめは、「里親に適正飼養の約束をしてもらう」ことです。虐待は論外ですし、適切な給餌給水と衛生管理、健康管理と医療ケア、首輪などによる所有権明示、完全室内飼い、不妊化手術など、動物愛護法の趣旨に基づいた飼い方をしてもらいたい、というのも、当然の要求です。

後者(適正飼養)の約束をさせられそうになって「怒る」ひとには、そもそも譲渡すべきではないと思います。一方、前者(返還請求権の留保)は、それはもちろん必要があってするわけですが、「大多数のひとにとってはむしろ関係ない」話です。それらを一緒くたにして「契約書」という形にし、十分な説明を施さなければ、怒るひとは大勢出てきてあたりまえだろう、とさるねこ父は思います。


M町の地域ねこ現場では、これまで10匹以上の子ねこたちを、里親さまに引き継いできましたが、依然として捨てねこの問題は解決しておらず、「1匹でも多く、できるだけ早く」里親さまへつなげたい、という切迫した状況が続いています。「きちんと飼ってもらえないひと」に渡したくはないですが、「きちんと飼ってもらえそうなひとを契約書で怒らせて、ご縁が遠のく」ということは、なんとしても避けたい。

というわけで、今回海くんのトライアル契約を始めるにあたって、新しくトライアル契約書を作り直してみました。契約時の説明すべきポイントは、3点。

  1. 万一の里親詐欺や虐待に備えて、所有権の所在&返還請求権に関して、保護主側により多くの権利を残す条項を入れてある
  2. ただしそれは、大多数の里親希望者には当てはまらないので、「万一の犯罪を予防する」という趣旨として了解してほしい
  3. 一方、すべての里親希望者の方に約束してほしいのは「適正飼養」であるので、その点は1つ1つきちんと条文を読んで理解・実践してほしい

この流れで説明しやすいように作った「トライアル契約書」がこちら(PDF版)になります。以下にテキストでも載せておきますが、主に第2条~第4条、第7条、第12条はポイント1&2、第5条~第10条がポイント3に関連しています。


トライアル契約書

保護主(       )と里親予定者(       )との間に、両者合意のもと、以下の通り譲渡予定動物のトライアル契約を締結した。

(目的)
第1条 次の譲渡予定動物を、期間を定めて、保護主はこれを引き渡し、里親予定者はこれを引き受けた。
 譲渡予定動物(    )1頭・(仮名:    )・性別・毛柄(    )・推定年齢/月齢(    )・特徴(    )
 トライアル期間  年 月 日 ~  年 月 日

(トライアル)
第2条 トライアルは、譲渡予定動物の正式譲渡に先立ち、里親予定者が里親として適正であるか、また譲渡予定動物にとって飼育環境が適正であるかを、保護主が確認するために行なうものである。
2 トライアル期間中、里親予定者はいかなる理由においても保護主の譲渡予定動物返還要求に応じなければならない。

(所有権)
第3条 トライアル期間中の譲渡予定動物の所有権は保護主にあるものとする。
2 保護主から里親予定者への所有権の移転は、別途「正式譲渡契約」を結ぶことによって行なう。
3 里親予定者は、トライアル期間中の譲渡予定動物を第三者に譲渡することはできない。

(飼養放棄・虐待の禁止)
第4条 里親予定者は、トライアル期間中、いかなる事由(結婚、離婚、リストラ、倒産、引越し、海外赴任、火事、自然災害、病気、アレルギー、出産、本人死亡、家族死亡、一家離散、譲渡予定動物の問題行動や疾患、先住動物との相性問題など)によっても、譲渡予定動物の飼養放棄または虐待(ネグレクトを含む)を行なってはならない。
2 里親予定者は、譲渡予定動物を飼育できなくなることが予見される場合には、速やかに保護主にこれを報告し、譲渡予定動物を返還しなければならない。

(トライアル期間)
第5条 トライアル期間中、里親予定者は譲渡予定動物に適切な給餌・給水を行なうとともに、食器洗浄や排泄物処理等の衛生管理に努めなければならない。
2 譲渡予定動物の給餌・給水および衛生管理にかかる費用は、里親予定者の負担とする。

第6条 トライアル期間中、里親予定者は譲渡予定動物の健康管理に十分留意し、病気やけがの予防に努めるとともに、必要な医療行為を速やかに受けさせなければならない。
2 譲渡予定動物に医療行為を受けさせるときには、里親予定者は保護主に対し速やかに動物病院名・診断結果・費用について通知しなければならない。
3 譲渡予定動物の診断・治療にかかる費用は、原則として里親予定者の負担とする。ただし、高額の医療費を伴うような重篤な疾患が明らかになった場合は、保護主と里親予定者との協議により、双方が応分の負担を行なうものとする。

第7条 トライアル期間中、里親予定者は保護主からの譲渡予定動物の写真請求や面会請求に応じなければならない。
2 トライアル期間中、保護主から里親予定者に対し飼育状況に関する改善要求がなされた場合には、里親予定者は誠意をもってこれに対応し、譲渡予定動物の飼育にふさわしい環境を整えなければならない。
3 トライアル期間中、里親予定者から保護主に対し飼育に関する相談がなされた場合には、保護主はこれに応じて必要な助力・助言を行なわなければならない。

第8条 トライアル期間中、里親予定者は譲渡予定動物が迷子にならないよう、首輪を装着し、かつ、連絡先を明記した迷子札を取り付けなくてはならない。

第9条 トライアル期間中、里親予定者は譲渡予定動物を放し飼いにしてはならない。
2 譲渡予定動物が猫である場合、里親予定者はこれを完全室内飼いで管理しなければならない。
3 万一譲渡予定動物が逸走した場合、里親予定者は速やかに保護主にこれを知らせるとともに、関係行政機関および近隣住民にも連絡して、譲渡予定動物の一刻も早い発見に努めなければならない。
 ○所轄の動物管理行政窓口
 ○所轄の警察署
 ○最寄りの交番
 ○所属自治会長・役員・班長

第10条 トライアル期間中、万一譲渡予定動物が屋内・屋外を問わず事故に遭った場合、里親予定者はその経緯を保護主に説明するとともに、獣医師による診断書を保護主に提出しなければならない。
2 トライアル期間中、万一譲渡予定動物が死亡してしまった場合、里親予定者はその経緯を保護主に説明するとともに、獣医師による死亡診断書を保護主に提出しなければならない。

(トライアル契約の終了)
第11条 第1条に定めるトライアル期間が終了した時点で、保護主は里親予定者の飼育状況を確認した上で、次の各号のいずれかを選択するものとする。
 一    里親予定者の飼育状況を適切と認め、保護主と里親予定者との間であらためて「正式譲渡契約」を結ぶ
 二    里親予定者による里親予定動物の飼育継続が困難であると判断し、里親予定動物の返還を求める
 三    より適切な判断を下すために、トライアル期間を延長する
2 前項第一号による正式譲渡に備え、保護主と里親予定者は別紙「譲渡予定動物保護中の医療費一部負担に関する覚書」をあらかじめ取り交わしておくものとする。
3 前項第二号による返還に伴う交通費その他の経費は、保護主と里親予定者双方の等分負担とする。

第12条 次の各号に定める条件の一つを満たした場合、第1条に定めるトライアル期間に関わらずトライアル契約は終了し、里親予定者は譲渡予定動物を保護主に返還しなければならない。
 一    第4条第2項の規定により、里親予定者がトライアルの打ち切りを保護主に申し出た場合
 二    第5条から第9条に定める事項に違反すると保護主が認めた場合
 三    第10条第1項において、里親予定者に重大な過失があると保護主が認めた場合
 四    里親予定者の経済状況、健康状態または飼育環境について、動物を飼うのに不都合な事実の隠ぺいまたは虚偽の内容があると保護主が認めた場合
 五    本契約書記載の住所・身分等に虚偽の内容があった場合
 六    住所変更に際し保護主への住所変更通知を故意に怠った場合
 七    その他里親予定者の責めに帰すべき事由により、保護主と里親予定者の間の信頼関係が損われた場合
2 前項に定める事由により譲渡予定動物を保護主に返還する際の交通費その他の経費は、里親予定者がこれを負担する。ただし、保護主がその経費の一部または全部を負担することはこれを妨げない。

その他特約事項(特にない場合は「なし」と記載)

 上記トライアル契約を証するため、本書を2通作成し、保護主・里親予定者各自が署名捺印の上、それぞれ1通を所持するものとする。

  年 月 日

(保護主)
 氏名 (印)
 住所
 電話
 身分証No.    (種類    )

(里親予定者)
 氏名 (印)
 住所
 世帯主氏名
 電話
 身分証No.    (種類    )
 本人以外の連絡先      (続柄       )※実家や兄弟姉妹、息子・娘家族など

【個人情報の取扱いについて】
 本契約により得た個人情報は、当該譲渡予定動物の譲渡手続きのみにおいて使用し、他に転用・開示はいたしません。
 ただし、動物の虐待や遺棄などの犯罪の防止の目的に限り、警察および関係諸機関に情報を開示する場合がございます。
  個人情報管理責任者氏名:
  個人情報管理責任者住所・連絡先:


さるねこ父は法律の専門家ではないので、厳密に条文解釈すると曖昧な部分や妙な部分もあるかもしれませんが、見逃してやって下さい。

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