平成24年度全国犬・猫飼育実態調査結果

一般社団法人ペットフード協会では、1993年以降毎年全国犬・猫飼育実態調査を行ない、全国の犬・猫の推計飼育頭数などを算出しています。2012年(平成24年)の調査結果がこのほど協会サイトに掲載されました(結果概要PDF調査項目別リンク)。それによると、全国の犬の推計飼育頭数は1,153万4千頭、猫は974万8千頭となっています。たいがいの場合、この数字が一人歩きして、いろいろなところで引用されるわけですが、今回はちょっとその舞台裏まで見てみることにしたいと思います。


まず、そもそもなんで「ペットフード協会」がこのような推計を行なうのか、ということですが、これは結果概要PDFの「現在飼育率/飼育意向率」という箇所を読めば納得できます。

今後の飼育意向は犬が30.4%、猫が18.2%で、飼育意向のある人の数は、犬・猫共に現在の飼育している方の数の約1.8倍に達することがわかりました。これは犬猫に関するペット市場の大きな潜在需要があり、飼育意向のある方々が犬あるいは猫を飼育できるような環境の提示・提案を行うことによって、将来に向けて飼育頭数拡大が期待できます。

いぬ・ねこを「飼いたいと思っている人」は「実際に飼っている人」の1.8倍いるから、まだまだもっとペットを飼いたい人はいる=ペットフードを売る余地がある、と言うための分析に調査が行なわれているということになります(この時点で、もやっとしたものを感じますね)。

フードを売らんかなとする業界が行なう調査ですから、当然ながら調査手法や推計手法の選択にあたっては「数が多く出る方が好ましい」ということになるでしょう。ちなみに、狂犬病予防法に基づく犬の登録頭数を管理している厚生労働省の統計をみると、2012年3月末(平成23年度末)現在の犬の登録頭数は6,852,235頭となっていますから、ペットフード協会の数字はその約1.7倍となります。

畜犬登録数自体、それがどの程度実態を反映しているのか、という点については議論の余地があります。数字を過大にする原因の一つは「亡くなった犬の登録をきちんと抹消していない」ということが挙げられ、過小にする原因の一つは「登録しないで飼っている人がいる」ということが挙げられます。ほかにもいろいろと実態との誤差を生じさせる要因はあると思いますが、それにしてもペットフード協会の推計値とは差が開きすぎているように思われます。


ペットフード協会の推計のしかたは、現在は次のようになっています。

sanshutu

http://www.petfood.or.jp/data/chart2007/gaiyo.htmlより

ネットアンケートでわかった「飼育世帯率(回答者の何%が犬・猫を飼っているかの割合)」と「1世帯あたり平均飼育頭数(飼っていると答えた回答者は平均何頭の犬・猫を飼っているか)」の値を、総務省による住民基本台帳に基づく世帯数に掛け合わせて「飼育頭数」を推計している、ということになります。2012年(平成24年)調査結果では、「飼育世帯率」は犬16.77%・猫10.22%、「平均飼育頭数」は犬1.27頭・猫1.76頭となっており、これらを住民基本台帳世帯数5417万1475世帯に掛け合わせて出てくるのが、冒頭の数字です。

そうすると大事なのは、ネットアンケートで出てきた飼育世帯率と世帯あたり平均飼育頭数が、どれほど妥当なものなのか、という点になります。ものすごく偏った回答者だと、結果はおかしなものになる。たとえばですが、ペットフードのヘビーユーザーにピンポイントで訊いたりしたら、飼育世帯率100%・世帯あたり平均飼育頭数12頭、とかいうことになったりします。逆に、原則ペット飼育禁止のマンション居住者にピンポイントで尋ねたら、飼育世帯率0.5%・世帯あたり平均飼育頭数1.2頭とかになってしまうでしょう。

ペットフード協会の2012年(平成24年)調査では、ネット調査会社大手のインテージを利用して5万件あまりの有効回答を得て、それをもとに統計分析を加えています。調査対象者は、インテージ・ネットモニター135万人のうち、20代~60代の男女個人を対象として、実際の日本の人口・性別構成に合致するように重み付けをして(ウェイトバック)調整されている、ということです。

そう聞くと「まあ、それだけちゃんと下ごしらえしてあるんだったら、それなりに正しい『飼育世帯率』と『世帯あたり平均飼育頭数』なんじゃね?」って気もしますが、大元の135万人のネットモニターは、やっぱり「ネットモニターをする『意志』と『余裕』のある個人」になるんじゃないかというふうにも思います。その日の生活がぎりぎりのひとは「ネットモニター」なんてする余裕はないとも言えるし、逆に「ネットモニター」で得られる謝礼金(ポイント)で積極的に暮らしをしのごうとしている人が多いのかもしれませんが、「(収入や自由になる時間を含めた)生活の余裕」という観点で見た場合、135万人が1億2500万人を代表するサンプルになれるとは、ちょっと思えない。

人口・性別構成に合わせてウェイトをかけるのではなく、収入と世帯構成(単身か、夫婦+子どもか、高齢者か、など)に応じてウェイトをかけているなら、もう少し信頼性が高くなるだろうと思います。「犬を飼う」「猫を飼う」という選択に影響を与えるのは、その人が男か女か、20代か40代か60代か、よりも、その人の所属する世帯がどのぐらいの収入があり、どの程度犬や猫のために家族が時間を割けるのか、のはずです。少なくとも、犬猫の里親さがしをするときには、そうした基本条件をクリアしたうえで、相性やら好みやらを考え合わせてマッチングを行なおうとしています。そのあたりがまるっと無視されている感じのサンプリングでは「果たして、これで適正な重み付けが行なえるのかなあ」という気にはなりますね。


推算のしかた(世帯数×飼育率×平均頭数)自体は、これ以外にあまり選択肢もないでしょうから、あとは「より適正な飼育率と平均頭数を得るためのサンプリング調査」が課題ですね。たとえば、長崎市内で「旧市街住宅地」「旧市街隣接造成地」「郊外ニュータウン」「商業地・オフィス街」「旧漁業集落」「旧農業集落」のようにタイプ分けした町内から1つずつ選んで全世帯に聞き取り調査を行ない、それをもとに集計すれば、けっこうそれっぽい値がでるだろうと思います。

そうやって苦労して、わかることが「長崎市に犬は何頭、ねこは何頭います」ってことだけだったら、その調査自体意味あんの? ということになりますけどね。ただ、地域ねこ活動や外ねこ不妊化のサポートなどをしていると「ながさきにねこはいったい何頭いるのか知りたい」とは思います。

ちなみに、ペットフード協会の数値を流用すると、長崎市(189,716世帯=2012年11月)のねこは189,716×0.1022×1.76=34,125頭になります。ただしペットフード協会推計値には飼いねこしか含まれません(内外飼い・外飼いは含む)ので、ノラねこはこの数字には含まれません。(本当に知りたいのは、むしろノラねこの数ですが。)

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