朝日新聞デジタルから引用です。
【行方史郎=ワシントン】米国で猫に殺される野鳥が年間24億羽に上り、深刻な脅威になっているとの論文が英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ(電子版)に発表された。野鳥保護団体が「すぐにでも対策が必要だ」と訴えるのに対し、愛猫団体は「猫を殺しても野鳥は救えない」と反発する。
米スミソニアン保全生物学研究所の鳥類研究者らが過去の数十の調査結果から推計したところ、アラスカとハワイを除く米国では、猫に殺される野鳥は年間24億羽、ネズミやウサギ、リスなどの小動物は123億匹に上るという。
(2013年2月19日 21時34分)
この記事にはいちおう続きがありますが、有料会員でないと読めないことになっているので、紙媒体に掲載されたらまた出典明記で補うこととして。
正直「なんだこりゃ?」というニュースではあります。見出しも中身もぶっ飛んでる気がしたので、オリジナルにあたってみました。
記事で「英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ(電子版)に発表された」というのは、この記事のことです。
The impact of free-ranging domestic cats on wildlife of the United States (Scott R. Loss, Tom Will & Peter P. Marra)-「アメリカ国内における野生生物に与える放し飼いねこの影響」
2012年9月6日投稿・2012年12月12日受理・2013年1月29日公開となっています。上のリンクをクリックするとabstract(要約)が英文で読めます。本文を読むには、3.99ドルで48時間の購読権を買う(Rent)か8.99ドルで時間無制限の購読権を買う(Buy)必要があります。さるねこ父は買って読み始めたところですが……「こりゃ、ひどいな」というのが第一印象です。
買ってまで読む物好きはそういないと思いますし、英文要約もわざわざ読むのはめんどうだろうと思いますので、さるねこ父の方で要約を適当に訳しておきます。
建物や自動車などの人工物に当たったり、有害汚染物質の影響を受けたり、飼養動物によって捕食されたりといった、人間活動に由来する脅威によって、毎年何十億という野生生物の命が奪われている。
放し飼いのねこ(free-ranging domestic cats)は全世界に広まり、いくつかの島々における野生生物の絶滅をもたらしてきた。(島ではなく)本土における野生生物の死亡数に対して、こうした放し飼いのねこがどの程度の影響を与えているかについてはまだ明らかにされておらず、系統的解析や科学的データの検討を伴わない大ざっぱな見積もりしか出されていない。
われわれは、アメリカ国内における猫による野生生物の捕殺数について、システマティックにデータを解析・検討してその数量を見積もった。その結果、放し飼いのねこによって毎年14~37億羽の鳥類と69~207億匹の哺乳類が捕殺されていると結論づけた。この捕殺数は主にノラねこ(un-owned cats)によるものである(飼いねこ(owned cats)と対比した場合)。
この研究によって明らかになったのは、これまで考えられていたよりかなり多くの野生生物が放し飼いのねこによって捕殺されていること、そしてこのねこによる捕食こそが、アメリカ国内の鳥類・哺乳類の死因のうち、人間由来のものとされるほとんど唯一最大の原因であろうということである。
科学的に信頼できる保護策と政策的な介入が、この影響を軽減するためにとられる必要がある。
「鳥が死んじゃうのも哺乳類が死んじゃうのも、なにもかもねこのせいだ、ねこが悪いんだ、ねこめー、ねこめー!」って感じの要約ですが、特にさるねこ父がはしょったり誇張したりしているわけではありません。ほんとにこう書いてある。
ねこによる捕殺数を何十億匹・羽と見積もり、「ねここそがほとんど唯一最大の原因であろう」と結論づけているわりには、その他の人為的な要因(「窓や建物、鉄塔、自動車への衝突や農薬による影響」と書かれています)で何匹・羽死んでいるのかについての検討・記述はありません。なんでそういうことになるか、というと、実はこの論文が「実際に鳥が捕殺されたり窓にぶつかったりしているのを観察してカウントした結果」書かれたものではなく、「これまでに発表された推定データをたくさん集めて、それを統計分析して」書かれたものだからです。でもって、「ねこに殺された鳥や小動物の数」を見積もった研究はそこそこあったけれど、「鉄塔にぶつかった鳥の数」を見積もった研究はほとんどない、ので、「その他の人為的要因」についてはそれ以上の言及がないわけですね。
確かに、窓にぶつかる鳥が年間何十億もいるとはとうてい思えませんけれども、なんでしょうね、この違和感……(-_-)。
たとえて言うなら、「長崎新幹線が開通して、どのくらいの経済効果があるか、20本のリサーチ結果がこれまで出ているので、それらを合算して再度データ解析してみました、○○億円です!、すげえ!! 早く作るように『セイサクテキナカイニュウ』を働きかけなくっちゃ!」って言ってるようなものなんですよね。まともな経済学の論文としては、とうてい取り合ってもらえないレベルです。「は? ひとのふんどしで相撲とってないで、自分でデータ取ってこい!」って先生に怒られるレベルです。
そして「長崎本線(かもめ)をそのまま残した場合の経済効果がいくらになるかのリサーチ結果は、これまであんまり出ていないので、分析できませんでしたが、無視していいと思います」って書いちゃってる感じです。「いや、そこは『オモイマス』じゃないだろ」って突っ込みたい。
……このたとえを使うと、話があらぬ方向に広がりそうなのでこのくらいにしておきますが、少なくともさるねこ父はこの論文の内容妥当性には問題があると考えます。むしろ「なんらかの意図を持って、『結果ありき』でつくられたもの」だろうと思います。もちろん、ねこによる野生生物の補食が社会的に無視し続けてよい問題であるとは思えませんし、完全室内飼いへの移行推奨など、取り得るオプションもいくつか考えられると思いますが、この論文の意図はそれよりもっと煽情的で狡猾なのではないか、というのが率直な印象です。
つづく。