動物の保護と管理(官報資料版No.822より)

1974年3月13日発行『官報資料版』No.822は、「動物の保護と管理 ―人間と動物との豊かな環境づくり―」と題して、当時まもなく4月1日より施行されることになった「動物の保護及び管理に関する法律」についての説明が掲載されています。今から40年前の社会状況や、そもそものこの法律の立法趣旨など、今回関係法令を含めて改正作業が進んでいる「動物の愛護及び管理に関する法律」のパブリック・コメントを考える上でも重要な点が含まれていると思うので、ここに転載します。


動物の保護と管理

-人間と動物との豊かな環境づくり-

総  理  府

 昨年、第七十一回国会において成立した「動物の保護及び管理に関する法律」(昭和四十八年法律第百五号)が、本年四月一日から施行されることになっています。
 この法律は、動物の虐待の防止、動物の適正な取扱い、その他動物の保護に関する事項を定めて国民の間に動物を愛護する気風を招来し、生命尊重、友愛及び平和の情操のかん養に資するとともに、動物の管理に関する事項を定めて動物による人の生命、身体及び財産に対する侵害を防止することを目的として制定されたものです。
 この法の目的を実現するには、先進諸外国の例からみても、また法の強制力をもってしても一朝一夕になし得ることではないと考えられます。私たちは法の精神を尊重し、その趣旨の普及について不断の努力をはらっていく心構えが必要だと考えます。

◇立法の背景と法の趣旨

 私たちは、犬やねこ、牛や馬などを、あるいはペットとして、あるいは食用として、ときには、医学上の実験のために人間の身代りにする等さまざまな動機や目的をもって動物を飼い生活に役立たせていますが、従来、我が国においては、動物の保護及び管理に関する統一的な立法措置がなかったことなどもあって、往々にして動物に対する適切な配慮を欠き、このため、動物に不必要な苦痛を与えたり、また、一方では、動物の保管に適正を欠くために、動物による人身事故等が多く生ずる実情にありました。
 これらの実情並びに諸外国でのこの種の法令の整備状況等にかんがみ、動物の保護及び管理について総合的、統一的な立法措置を講ずることの必要性が、関係者の間で強く提唱され、重要な社会問題とさえなっていました。この法律は、このような状況を背景として制定されたもので、動物の虐待の防止、動物の適正な取扱い、その他動物の保護に関する事項を定めると同時に動物の管理に関する事項を定めて、動物による人の生命、身体及び財産に対する侵害を防止することを目的としており、単に動物を愛護しようというだけでなく、人と動物の共存の道徳理想を築き上げようとしているところに大きな特色があります。

◇法律の内容のあらまし

[1] 法の目的と動物愛護週間の設置について

 この法律は、動物を愛護することは、根本において人類愛にも通じるものであるという理念に立って、動物の虐待防止とその適正な取扱いを定め、「国民の間に動物を愛護する気風を招来し、生命尊重、友愛及び平和の情操のかん養に資する」こととするとともに、動物の管理に関する事項を定めて「動物による人の生命、身体及び財産に対する侵害を防止する」ことをその目的とするものであることを明らかにしています。そして、動物の保護及び管理に関する基本原則として、動物を不必要な苦痛、殺傷、酷使から守るだけではなく、積極的に、その習性を考慮して適正に取扱うようにしなければならない旨を定めています。
 また、動物の愛護と適正な飼養についての関心と理解を深めるために、毎年九月二十日から二十六日までを動物愛護週間と定め、この週間には、国及び地方公共団体は、関係団体等への指導、助言等によって、その趣旨にふさわしい行事が行われるよう努めなければならないとしています。この週間は従来民間団体において自主的に開催されていたものですが、これが法律をもって実施しなければならない行事とされたことに大きな意義があります。

[2] 動物の適正な飼養及び保管について

 動物の飼主等が、動物の飼養、保管に適正を欠くと、動物の健康や安全を害するばかりでなく、動物による人への危害を生じたり、人に迷惑を及ぼす原因ともなることがあるので、動物の飼主等は、動物を適正に飼養、保管するように努めなければならない旨を規定し、その具体的な基準は、内閣総理大臣が、動物保護審議会の調査検討の結果をまって定めなければならないことになっています。
 次に、地方公共団体にあっても、動物保護の見地と動物による人の生命等の被害防止の両面から条例の整備を図り、積極的に動物の飼養、保管について指導、助言し、人の生命等に害を加えるおそれのある動物の飼養制限等について、必要な措置をとることができることになっています。

[3] 犬及びねこに関する措置について

 犬やねこの飼主は、それらを飼養することができなくなったり、あまり繁殖して飼養が困難になった場合、往々にしてそれを安易に野に捨てる傾向にあるので、捨て犬及び捨てねこの発生防止と、その保護を図るために、都道府県等に犬やねこの引取りを義務づけ、犬やねこを捨てた者を処罰することとしています。また、犬又はねこの所有者は、動物がみだりに繁殖して適正な飼養が困難となることを防止するために、飼主は、できるだけ動物の生殖を不能にする手術を行うよう努めなければならない旨の所有者の責務を明確にしています。

[4] その他動物保護のための具体的措置について

 道路、公園等の公共の場所において負傷した犬、ねこ等(通常家畜とされるべき動物、その他一般に人々の間で親しまれている家畜、家きんの類)を発見した者は、すみやかに飼主に、飼主が判明しないときは都道府県知事等に通報しなければならない旨を定め、また、どうしても動物を殺さなければならない場合、例えば、有害動物の駆除、食用のためのと殺及び回復困難な傷病動物の処分や動物を試験研究等の科学上の利用に供するような場合は、できるだけ動物に苦痛を与えない方法によってしなければならないとし、その具体的な基準等は、動物保護審議会の諮問を経て内閣総理大臣が定めることとなっています。

[5] 動物保護審議会の設置について

 この法律を施行するための具体的な基準や必要な措置については、内閣総理大臣が関係行政機関の長に協議し、かつ、動物保護審議会の諮問を経て決定することとなっています。
 この審議会は、学識経験のある者のうちから、内閣総理大臣が任命する十五人以内の委員(その過半数は、動物に関する専門家が委員となる。)をもって組織され、内閣総理大臣の諮問に応ずるほか、動物の保護及び管理に関する重要事項を調査、審議し、意見を述べることができることとされています。
 この法律により、内閣総理大臣が定める基準等は次のとおりです。なお、審議会は法の施行と同時に発足することになっているので、これらの基準等は四月一日以降逐次決定されることになります。

  1. 動物の飼養及び保管に関する基準
  2. 犬及びねこの引取りを求められた場合の措置に関する必要な事項
  3. 公共の場所における犬、ねこ等の負傷動物等を収容する場合の措置に関する必要な事項
  4. 動物を殺す場合の方法に関する必要な事項
  5. 動物を科学上の利用に供する場合の方法及び事後措置に関する基準

[6]罰則について

 この法律で「保護動物」と定められた次の動物を、正当な理由がなく虐待し、又は遺棄した者には三万円以下の罰金又は科料が課せられることになっています。これは、法制定の趣旨にかんがみ、牛、馬、その他の動物を殴打し、酷使し、必要な飲食物を与えないなどの仕方で行う虐待や、犬、ねこ等のペットの無制限な繁殖の結果に伴って生ずる無分別な遺棄を防止する目的から定められたものです。
 なお、虐待及び遺棄に当たる事例および考え方は、従来の軽犯罪法及び刑法のそれに従うものであるとされています。
 また、次の「保護動物」は動物のうちでも特に人々の間で身近に親しまれているものを掲げたもので、このうち 1 は通常家畜とされるべき動物、2 は人の占有下に置かれているものを、1 と同様に保護しようという観点から定められたものです。

  1. 牛、馬、豚、めん羊、やぎ、犬、ねこ、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる
  2. 人が占有している哺乳類又は鳥類に属する動物

おわりに

 私たちは、この法律を単なる「生類哀れみの令」としてとらえることなく、無益の虐待から動物を救い、すすんでこれを保護しながら、人と動物が共存共栄する豊かな環境をつくりあげていくよう努めましょう。

【以上、『官報資料版』No.822=1974年3月13日発行】


さるねこ父が注目したいのは第3節の「犬及びねこに関する措置について」です。これは結局犬猫の引取りを行なう(行なわざるを得ない)社会的理由とそれへの対策について述べているわけですが、「飼い主が飼えなくなった犬猫、繁殖制限をしなかったために増やしすぎてしまった犬猫」を「往々にして安易に野に捨てる」傾向にあった点=社会的理由をまず指摘しています。

そして、それへの対応策として、つまり「捨て犬及び捨てねこの発生防止」とそれらの「保護」を図るために行政に犬猫の引取りを義務づけたのが、ピーク時の1985年度には806,018匹を数えるに至る、行政による引取り収容の始まりです。放置すればそれらの大部分は「野に捨てられた」ものを、行政が集めて「保護」したことは、それなりに社会的意義は大きかったと推測されます。「犬猫は、野山に捨てるものではなく、保健所に引取ってもらうものだ」という意識は浸透し、犬猫(特に犬)がひとの管理を離れることは少なくなったと言えます。ただし「保護」とは名ばかりで、実際はその大多数(たとえば1985年度であれば94.6%)が「殺処分」されていたのは、制度の最大の矛盾点ですけれども。

注目すべき点はそうした「矛盾だらけの保護」と同時に、いわば車の両輪として定められていたはずの「犬やねこを捨てた者を処罰する」規定(第13条)がまったく空文であった点です。犬猫を引取る方だけは着実に実行されて、捨てた人間を処罰する方はまったくと言っていいほど実行されなかった。さらに、第9条に掲げられた「飼い主による繁殖制限」の方も、努力義務に留められて、実効性を十分持たなかった。結果として「捨て先が、野山ではなく、保健所・動物管理/愛護センターに変わっただけ」のことで、それが今わたしたちが目の前にしている現実です。


冷静に考えれば、第一に責められるべきは、殺処分を粛々と実行し続ける行政ではありません。そうした行政に一切責任がないと言うつもりはないですが、問題の一番本質的な部分を握っているのは、いまだに野山に捨てるのと同じ感覚で保健所・動物管理/愛護センターに持ち込む飼い主であり、本来飼い主の義務(あくまで努力義務ですが)である繁殖制限を行なわない飼い主です。

40年前の動管法の制定の趣旨は、そうした飼い主を(罰則規定をちらつかせながら)なくしてゆくことだったはずです。今回の改正で「引取り拒否」が条件付きながら可能になったことは、長い回り道の末に、ようやく本来の道のりを歩き出した、そんなふうに考えることもできると思います。

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